サマリア / キム・ギドク

 2005年の作品。打算や狡さや諦めに囲われているからこそ、愛は甘美になる。ごまかしの無い愛なんて、ひたすら残酷で痛くて目を覆うしかない。その「痛みを抱えて生きる」さまを象徴的に描いた映画。
 
 性/愛は与えるものであると同時に、「惜しみなく奪う」もの((C)有島武郎)。だから愛は痛い。ひたすら痛い。人間の痛みが全面的に滲み出る。男から女、女から男への愛。はたまた、親から子、子から親への愛。友人から友人への愛。すべて、何か与えると同時に、何かを奪い去ってしまう。自分の中からも何かが損なわれてゆく。愛の痛みが連鎖したとき、言葉も失うような事態が進行する。ラストシーンがあまりに素敵で、涙を流した。愛の痛みの連鎖によって、もう取り返しのつかないところまで来てしまった、父と娘。沼地にはまり、アクセルを踏んでも進まない、娘の運転する車。父は、自らの愛の爪痕を償うために、先へ先へと進んでゆく。わたしたちが失いゆく誰かを追いかけるとき、おそらく、アクセルを踏み続けるけれども前進しない車なのだろう。エンジンの煙だけがもうもうと舞い上がる。アクセルを離せば静寂が訪れる。鳥肌が立った。

87点

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