ブラックホーク・ダウン / リドリー・スコット

 2001年に製作された、おなじみのこの作品。ニコニコ動画にも転がっている。米国防総省に撮影協力してもらう見返りとして、米軍の不利になるいくつかのカットを削除したという経緯も含めて、「アメリカ軍のプロパガンダ映画だ!」と一部で糾弾されているようだけれども、自分は比較的評価している。

 まず、この映画は9割近く戦闘シーンで占められているため、戦闘シーン(「アクション」)のリアリティが評価を大きく左右する。アクションシーンの面白さについては、文句なし。ブラックホーク・ダウンの戦闘シーンには、かなり人を惹きつけるものがある。では、「ドラマ」(物語筋)についてはどうだろう。この映画で描かれているドラマのプロットを一言で要約すれば、「戦場で一緒に戦っている仲間を見捨てることはできない。だから戦うんだ」ということになる。もしこの映画が誰かに感傷を与えるとすれば、「仲間意識」に関するものだろう。では、「仲間を見捨てることができない」という気持ちを米軍側の視点から一方的に描くと、「プロパガンダ」になってしまうのだろうか?何気なく検索をかけていたら、2chにこのような書き込みを見つけた。

77 :専守防衛さん :02/12/07 22:43
 ああいう状況に追い込まれればだれでも仲間意識は発揮すると思うよ。日本じゃ実戦を経験している人は居ないけれど、災害時などは命令が無くてもどこからともなく集まってきたりするし、レインジャーやデルタが訓練で能力を磨いているとしてもそれは兵士としての戦闘能力であって人間としての性格は万国共通だと思う。この映画で余りよく描かれていないソマリアの人たちだって兵士個人のレベルではやはり仲間や家族のために戦っているんだよね。 (参照

 これは説得力がある意見じゃないだろうか。戦場で兵士たちのモチベーションを維持させる理由にはいくつかの階層性が存在するのだろう。おおざっぱに考えれば、

レベル1:身近に衣食住や訓練をともにしてきた(同じ部隊に所属する)仲間たちのため
レベル2:同胞・国のため
レベル3:正義などの大義名分のため

とでも言えるだろうか。本作品の描写のメインはアクションシーンだったのだから、「ドラマ」に関して、レベル1の「仲間意識」のみを(米軍側の見方から)一面的にしか扱えないとしても、仕方ない気がするのだ。そもそも仲間意識とは、一方的なものなのだから。

 あるひとつの物事(出来事)は、さまざまなレベルから語ることができる。たとえば、目の前にガラスで出来たコップが置いてあるとする。そのコップについて2人で語り合うとする。このとき、コップのデザインについて語ることも、コップの物理学的構造について語ることもできる。わたしたちがコップのデザインについて語るときの言語レベルと、コップの分子構造を物理学的に語るときの言語レベルは、異なっている。しかし、どちらか一方の語り方が正しいということはなく、両者は共存できる(ともに正しい)。大事なのは、語りのレベルを一致させることだ。もし相手がデザインについて語っているならば、わたしもデザインについて語らねばならない。「このコップのデザインは美しいよね?」という問いかけに対して、「そもそもガラスはケイ酸塩で構成されていて…」と応じるならば、会話が無意味なものになってしまう。逆に、もし科学者がコップの分子構造について語っているならば、わたしも分子構造のレベルで返事をしなければならない。

 つまり、レベル1として描かれた仲間意識の物語に対して、レベル3の観点から「プロパガンダだ!」と批判するのは、なにか違う気がするのだ。

 結論。この映画は(レベル3の「大義名分」という意味において)「戦争は正義だ」「米軍だけが正義を体現している」などと語ってはいない(と自分は感じた)。あくまで戦闘シーンがメインな映画だ。そして、戦闘シーンでは、レベル1の「仲間意識」が一方的な形で作動したとしても、非難はできない(誰も仲間が死ぬ姿を見たくない)。だから、「プロパガンダだ!」という批判は妥当なものではないと思う。

 とはいえ、人間の精神の奥深さに触れる描写は一切出てこないため、「めちゃくちゃ面白い映画だ!」というわけにはいかない。あくまでアクション映画だ。アクション性とドラマ性を高い次元で両立させた『戦争のはらわた』などに比べると、評価は大きく劣ってしまう。また、「ソマリア民兵の描き方がいくらなんでもナイーブすぎるよね!」という感想を少なからず抱いてしまう。よって、次の点数を付けたい。

71点

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