9 月 2

 1986年の作品、ニコニコ動画へのリンク。ベトナム戦争モノ。作品解説

 これは救いのない戦争映画だ。「救いのない」というのは、ため息しか出ない、ベタに憂鬱になる以外に方法がない、ということだ。たとえば『プライベート・ライアン』は、胃が縮み上がるような肉体感覚としての戦争を追体験をするというスペクタル的な楽しさを持ち合わせている。憂鬱、というよりは興奮する映画だ。たとえば『遠すぎた橋』は、幾何学的に洗練された構図によって、戦争そのものが美的な段階にまで昇華されている。憂鬱、というよりはむしろ感嘆する映画だ。また、多くの反戦映画では、徹底的に絶望的な戦争の状況が描かれることによって、観客はむしろ救われているといえるだろう。「悲惨すぎる」という感覚は、容易に、「戦争は絶対にダメだ!」「許せない!」という憤りや倫理的使命感に転化する。それは間違いなく観客にとってある種の「救い」なのだ。憂鬱感を、前向きな未来に向けてのエネルギーに変えることができるのだから。「絶望している自分」に酔うことができるのだから(もちろんそれは決して悪いことではないのだけれども)。ところがこの『プラトーン』では、メタに逃げる要素が一切残されていない。もう、興奮することもできず、怒ることもできず、泣くこともできず、美的洗練に感嘆することもできず、ただただ憂鬱なのだ。観やすいハリウッド映画として「ベタな憂鬱そのものとしての戦争」のリアリティを鮮やかに切り取った傑作。少々古めかしい部分があるとはいえ、この映画は、一度観ておく価値があるだろう。

85点

4 月 30

 1971年の作品、邦題は『激突!』。ニコニコ動画のリンク。個人的に、「スピルバーグの才能はやっぱり凄いなぁ」と感じたキッカケになった映画。(ちなみにこれはスピルバーグの初監督作品)

 まっ昼間、恐怖のトラックに襲われた乗用車…の様子を描いた映画。これの凄いところは、【大型機械への恐怖】を見事に描いているところだと思う。たとえばコンビナート、ダム、貨物列車、大型トラックなど、人間が生み出した巨大な機械に対して、多くの人が憧れと同時に恐怖心を抱いていると思う。機械が突然自分を襲いはじめたらどうなる?という恐怖心。そんな人間の心の闇が、素晴らしいカメラワークで、見事に映像化されている。

 あと、この映画は、一見ホラー映画のようでホラー映画ではないところも重要なポイント。乗用車を襲うトラックの運転手の存在は暗示されているものの、誰が運転しているのかは決してわからないようになっている。この【自分を襲ってくる主体】に対する距離感の取り方が絶妙。もしトラックの運転手がいないことになれば、「機械が人間を襲撃する」というただのホラー映画になってしまう。他方、もしトラック運転手の存在がきちんと描かれてしまえば、「誰かが誰かを殺そうとしている」というただの殺人モノのアクション映画になってしまう。自分を襲ってくる主体が誰なのかが限りなくボカされているがゆえに、嘘くさいホラー映画ではないリアルな文脈にて「機械が人間に与える恐怖感」を巧みに演出できているのだと思う。お見事!

85点

4 月 30

 1977年の作品。ニコニコ動画のリンク。第2次世界大戦中の「マーケットガーデン作戦」(連合国軍vsドイツ軍)を扱ったもの。もうこれは文句なくいまだに戦争映画のトップ3に君臨する名作中の名作だと思う。観やすい、戦闘シーンで興奮できる、音楽が抜群に素敵、美しい絵の数々、そしてラストシーンが深く余韻を引く。

 おそらく、評価される戦争映画ってのは、得てして、以下の条件を備えている。

1.「国のために戦う」という大義名分を無条件に信じ込まない、シニカルで醒めた主人公が登場する
2.迫力がありリアリティーあふれる戦闘シーンが描かれている
3.<味方=善/敵=悪>という二分法ではなく、両者の人間性がきちんと描写されている
4.戦争のむなしさを暗示させるような台詞ないしやりとりでラストシーンが締めくくられる
5.芸術的(幾何学的)に美しいカメラの構図が散りばめられている

 この映画は上記の5条件を見事に満たしている。本当に質の高い映画なんだけれども、典型的な「良い戦争映画」に忠実すぎるので、若干、優等生臭く感じられるかもしれない(自分はそう感じた)。つまり、自分の予想の範囲を超えた現実の生々しさ(生の躍動)には欠けるものの、これ以上はありえないというほどの優等生的戦争映画なのです。そうそう、抜群の音楽、格好良すぎるラストシーン(エンディングロール)、幾何学的に美しい構図(とくに落下傘部隊が飛行機からパラシュートを広げながら地上に舞い降りていくシーンの美しさ;CGを使わず実録だからこそ表現できる空気感)にも注目してみてくださいね。

94点

4 月 4

 1992年、アメリカの作品。ニコニコ動画にもある。黒人のカリスマ的指導者、マルコムXの生涯を追った伝記的作品で、3時間22分もある超大作。長い!でもまったく飽きさせない。最後まで食い入るように観てしまった。映像も脚本も音楽も、良く練られている。

 マルコムXの生涯を丁寧に描いており、「伝記」として本当に立派な作品だ。3時間半もの大作を作ることを許されたのはスパイク・リー監督だからだろうけれども、彼は与えられた時間を存分に活かしている。さまざまな歴史的人物について、これだけの密度とヴォリュームを備えた伝記的映画が、もっともっとたくさん作られれば良いのにな、と思う。

 マルコムXがひたすらカリスマ的に描かれていないところが素晴らしい。

 マルコムの中には、身を切り刻むような、激しい恐怖心と、生命の危機をわざわざ呼び込んでいるみたいに、思い切った行動をしないではいられない、むこうみずな心とが、同居している。恐れおののきながら、あるいはそれ故に、「敵」の前では、自分を精いっぱい大きく見せようとする。虚勢によって恐怖が中和できるとでも思っているみたいである。(参照

 この引用部はマルコムXの特徴をかなり的確にあらわしていると思う。この映画では、隠しきれない恐怖心を持ち、それゆえに虚勢を張り恐怖を打ち消そうとするマルコムXの生き様が、実に良く描かれているのではないか。理念に燃えた聖人としてではなく、さまざまな出会いや偶然を積み重ねる中で(黒人指導者という)社会的役割を獲得していく人間くさい男としてマルコムXを描いた監督の力量は、なかなかのものだ。確たるリアリティを持った人間の生き様が、じわじわと伝わってくる。

 ほんとうに誠実な伝記的映画。こういう作品、もっと増えれば良いのに。あと、マルコム役のデンゼル・ワシントンは、マルコム本人に似すぎです。ここまで似ていると、「演技」の臭いすら嗅ぎ取れなくなってしまうよ。

83点

4 月 1

 1957年に公開された、陪審員たちのやりとりを演劇的に描いた、呆れてしまうほどの名作。ニコニコ動画にもある。これを観て「よくわからない」だとか「時間の無駄だった」などと感じる人はおそらくいないのではないか。もう、語るのが馬鹿らしくなってしまうような作品。だから、少しだけ。

 この映画はとても面白いのだが、実はかなり非現実的な描写を行っている。なぜなら、無罪を主張する側は<論理・理性・証拠>に則っており、有罪を主張する側は<感情・偏見・思い込み>に則っているという形で、綺麗に二分法が成立しているからだ。この映画に興奮してしまうとき、おそらくわたしたちは、「偏見に満ちた感情的な馬鹿をあざ笑う」というカタルシスを得ている。この映画の愉快さのかなりの部分は、「バカを安全地帯から嗤うことができる」という、ハリウッド的な二分法の仕掛けに由来していることには注意したい。(一見したところよくありそうな話だけれども、実際にはあまりない状況だと思うのだ、アレは)

 まぁでも、演劇的な舞台だと考えれば、これは面白いです。本当に。あと、カメラワークに注目。カメラの長回し(短くカットして編集せずにひたすら1ショットを続けること)が、めちゃくちゃこの映画の魅力を引き立てている。カットして場面場面をつなぐのではなく、リンゴの皮を剥くようにぐるぐるとカメラが長時間1ショットを撮り続けるからこそ、男たちの心理的な交錯が生々しく伝わってくるんだよなぁ。オープニングの長回し、そして陪審員が徐々に引き上げていくラストシーンの長回し。この二つは要チェック。痺れた。

93点

3 月 29

 映画全体の物語筋はハリウッド臭くてイマイチなんだけど、やはり冒頭の戦闘シーンの映像と音響が圧倒的だと思う。戦争の肉体的な恐怖をここまで体感できる映画はないのでは?つまり、頭で理解する戦争、胸を痛める悲惨な物語としての戦争ではなく、びゅんびゅん飛び交う銃弾や砲弾に恐怖し手に汗を握り、人命が虫けらみたいに海の藻屑と消え、内蔵がぶちゅぶちゅ飛び出してしまうような、そんな【戦慄的な身体感覚としての戦争】をまざまざと体験させてくれる点が素晴らしい。自分が次の瞬間には肉の塊になっているかもしれないという戦争の現実を味わせてくれる作品。大金を投じなければ、このリアル感は表現できない。

75点

3 月 29

 ナボコフの小説も良いけれど、キューブリックが撮った映画版も素晴らしい。ロリータの女優が可愛い過ぎる。これはやばいね。それだけで観る価値がある。彼女に誘惑されたら全人生を投げ打って追いかけると思う。でも、彼女はどう見ても10代後半で、18歳前後といえば万人にとってストライクゾーンな恋愛対象になるわけで、だから、この映画では、ロリコン独特の奇特な世界が描かれていないとはいえる。その点は残念。つまり、ナボコフの小説は別にして、キューブリック独自が描いた世界観としてみれば、この映画は評価できると感じる。

85点

3 月 29

 1987年。戦争を誇張的に滑稽に描いた映画。だけれども、「それでも戦争はそういうものだし、そういう風に続いてゆく」というキューブリック監督の諦念が滲んでいて、その点が好き。思うに、反戦は真正面から唱えちゃダメなんだよ。スタイリッシュな反戦運動こそが組織されるべき時代だと思う。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2610757

78点

3 月 29

 1964年。 米ソ冷戦時代にキューブリックが作った素晴らしきブラック・コメディ。もう、ラストシーンの美しさと、美しければ美しいほど皮肉になるというトリックが、愉快で素敵すぎる。最高。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1067422

95点

3 月 29

 これも公開中。ってか恵比寿ガーデンプレイスの公開はもう終了したのかな?これ絶対におすすめ。イイ。恋と愛と喪失を、ひたすら登場人物二人の語りで進行させる。語りっつっても回想シーンとか入るわけじゃなくて、ただ、パリの街角をしゃべりながら歩いてるとこを映すだけ。それだけ。あ、一軒だけカフェに入ったか。それだけなのに、それだからこそ、言葉から零れ落ちる余剰が際立つ。ラストシーンも秀逸。見に行け!見に行け!

85点